美容外科情報室

 
 

健康保険の適用
この分野の施術の多くは、病気の治療ではないため健康保険は適用されず、全額自己負担の自由診療(保険外診療)となる。これは、対象疾患が先天的なものであるか、後天的なものであるかにかかわりはなく、乳がんの腫瘍除去の後のインプラントの挿入、交通事故によってできた瘢痕の形成手術などにおいても(拘縮を認めない)、原則として健康保険は適用されない。例外として、機能障害(例えば、眼瞼下垂)がある場合には、健康保険が適用される場合がある。

日本における美容外科事情

社会的環境
日本では美容外科手術を受けた事実を隠す傾向が根強い。そもそも、日本においては、欧米では一般的なピアスや刺青といった「身体を傷付ける」とされるようなファッションを忌避することが多い。「何故、身体を侵すファッションを忌避するのか」といったことは学問的に深い検証がされたことはないため、一般には原因を文化や宗教観といったものに求めることが多いものの、詳しいことは分かっていない。同様に「どこまでを整形手術と看做すのか」といった定義も曖昧である。また、整形した事実を相手に指摘するのは侮辱であるとされている。

現在のところ、日本においては、美容外科手術を受けた者に対する社会の一部の偏見はまだ根強く残っているといわざるをえないため、特に公開された場における発言等に際しては、手術を受けた者のプライバシーを侵害しないか配慮が必要である。

市民権を既に得ている美容外科手術としては、脱毛や縮毛矯正、歯科矯正などがある(これらは侵襲性がないか、少ないことから美容外科手術とはみなさないこともある)。芸能界では美容外科手術を受けることが当然になっていると噂されているが、美容外科手術をしたことを公然と認める芸能人は少ない。

一方で、例えば、上眼瞼に皺を一本形成し多少目の開きを大きくするだけの重瞼術で、本人が社会上不利益を受けていると思っている心理負担を軽減し、人のQOLの向上につながるのであれば、それは何ら社会的・倫理的に問題ではないという考え方もできる。また、美容外科手術に限らず、例えば高齢者の女性に化粧を施すと高齢者が活き活きとする作用などが報告されている。高齢化社会を踏まえて、美容外科手術が、技術進歩の結果、より安全に施行することができ、中高年以上の人口層がより活動的な社会生活をなすための補助手段となりえるのであれば、美容外科手術を否定する医学的・倫理的根拠は希薄になる。そして、実際、日本において美容医療が医療の一分野として正式に認知されるに至った経緯には、これらの考え方を基礎にするものと考えることができる。

二つの美容外科学会の存在
  美容外科としての標榜科化が比較的新しい出来事である点、医療制度として専門医でなくても看板を掲げて治療が行えるという現状であるがゆえに、日本では永らく形成外科医以外によって美容的手術が施されてきた経緯があり、多くの問題を生み出してきたものの、彼らには一定の実績とノウハウがある。2007年現在、日本には、その歴史的成り立ちや物の考え方の違いなどから「日本美容外科学会」という同名の団体が2つ存在している。一つは日本形成外科学会会員による、形成外科を派生由来とする日本美容外科学会(JSAPS:1977年設立)であり、もう一つは開業医が中心となって育んできた美容外科技術を提供する事を目的とする日本美容外科学会(JSAS:1997年設立)である。美容外科の看板を上げている医師はほぼいずれかの学会に所属しているのが現状である。両者の主義主張は異なり、それぞれ独自の認定医療施設制度(認可未認可含む)を設けるなど独立した路線を維持しているために、美容外科施術を考えている人にとって混乱の元となっている。クリニック選びの参考としてそれぞれのHPにおいて関連施設、学会の掲げる概念を紹介しているので、目を通すのもよいと思われる。  

日本国外における美容外科事情

欧米の場合
欧米、特に北米では、美と健康、若さに執着する価値観が強く、老若男女を問わず整形を受ける者が増えている(但し、下記に述べるように侵襲性の強いものは余り好まれない)。特に歯列矯正は極めて一般的で、逆に歯列矯正を受けないことを非難される場合もある。こうしたことから、美容外科が乱立し、価格競争が起こっている。そのため、一部の形成手術における費用は非常に安価である。

韓国の場合
韓国でも以前は美容外科を利用した事実を隠す傾向があったが、主に芸能界において施術を告白することが「潔い」とされるようになるに従い、一般人においても美容手術を忌避する傾向が弱まった。近年では、老若男女を問わず美容外科手術を受ける「美容共和国」となっていると韓国メディアによって報じられている。その一例として、親が子に美容形成手術を入学祝いといった形で受けさせるといったことがある。(但し、これはソウルのような大都市に住む一部の富裕層に見られる傾向であり、「習慣」と呼ぶほど全国的に一般化している訳ではない。韓国の新聞社がウェブ上に掲載している日本語版を読んだ人々が全国的な習慣だと勘違いし、「二重まぶたでほお骨の目立たない韓国人はみな整形手術を受けている」などのデマを2ちゃんねるなどの電子掲示板で実しやかに語っている。)美容形成ブームの加熱に伴って無免許医が横行しており、無免許医の施術によって顔面が崩壊してしまった「扇風機おばさん」が社会問題となった。また、韓国では「美人の定義」が極めて流動的であり、近年では美容外科術を施された美形よりも、韓国人らしい顔が支持される傾向がある(但し、この傾向がどこまで続くかも不透明)。 現在のところ韓国では女性の見た目にこだわる風潮が強く、韓国で美容形成を受けるのは若年女性が圧倒的に多いが、男性でも重瞼術(二重まぶた)などを受ける者もいる。

美容医療の安全性の向上
日本における美容外科の歴史において、美容外科が正式な医療行為であるとの認知に比較的時間がかかったのは、それが健康な身体に外科的侵襲を加える行為であるのに対して、安全性の確立が不十分であったことが一つの大きな要因としてある。 実際、初期の美容外科治療においては、豊胸術や顔の若返り術と称して、皮下に直接ゲル状のシリコンを注入し、合併症を引き起こしたり、隆鼻術と称して解剖学的に無謀なプロテーゼ(シリコン樹脂を板状に加工したもの)の挿入を試み、プロテーゼが後年に皮膚を突き破って出てくる症例などが散見された。しかし、近年では、医師が正しい解剖学的知識を習得できる機会が増えたことや、医療技術の進展により、美容外科手術の安全性は飛躍的に向上してきている。

さらに、従来では、美容手術といえば侵襲性(invasive)のあるもの=身体をメス等の医療器具で直接的に侵す外科的手術が一般的であったが、近年では技術の発展により、皮膚に塗布するだけで一定の効果が得られる薬品(例:レスチレンジェル)や注射するだけで効果のあるもの(例:ボトックス・ヒアルロン酸)といった低侵襲性の手術が一般化している。これらは、その侵襲性の低さと同時に「注射するだけ」「塗るだけ」といった単純な施術であるために危険性が少なく、臨床経験の少ない医師でも容易にとりいれることができるため、特にアメリカ大陸の美容医療界では爆発的に広まった。近年ではナノテクノロジーや遺伝子技術を利用した技術も研究されている。